旧制の仙台二中、二高、東北大学、そして山の会と、５０年来親しくしてきた岳友、岩井�ﾐさんが亡くなられてから早や３年近く経ちました。
この度御子息　純さんの陶芸展に併せて、岩井さんの切り絵が供覧されることになりました。

彼は、若い頃から山岳部や山の会の仲間に頼まれると、パンフレット、ポスター、会報の表紙まで快く引き受け、絵や版画に見事な才を発揮してきました。
彼は斬新な発想と繊細な描写で自然の厳しさ、優しさ、美しさを巧みにとらえ人々を魅了しました。年賀状の干支シリーズや山の四季の版画等は、毎年始めの期待と楽しみでありました。


更に十数年前から切り絵にも境地を開き、新たな感動を我々に与えてくれました。
その作品にはあるがままの自然が、鋭い感性と精緻なタッチで生き生きと表現されています。
また暖かく優しい人柄が作品の随所に感じられ、見るものに親しみと安らぎを与えます。

岩井さんは『山』『雪』『自然』をひたむきに愛した人でした。彼の作品を眺めていると様々な情景が浮かんできます。
凍りついた蔵王のお釜、明るい刈田岳の大スロープ、輝く樹氷のパラダイス、深雪に半ば埋もれた清渓小屋など、心にしみる感動の中へ引き込まれる思いがします。
精妙に描かれた草や木の姿には、自然の営みに対する彼の深い愛情が感じられます。


この度待望の切り絵集が刊行されることになり、大変嬉しい限りです。岩井さんの切り絵にはじめて接する方にも山の楽しさ、自然の素晴らしさを身近に感じさせてくれることと思います。

平成５年１１月
東北大学名誉教授　東北大学山の会　　佐藤　春郎